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8 おせったい

 ある所に、おハナさんとおソメさんという、大変なかのよいお婆さんがいました。

 

 ある時、おハナ婆さんは、行ってみたかった四国お遍路のバスツアーに参加する事にしました。何度かにわけて八十八カ所のお寺を回るツアーです。御朱印は、御朱印帳ではなく納経軸という掛け軸に頂くことにしました。

 ところが、ツアーの途中でおハナさんは、大事な掛け軸をなくしてしまいました。

 これは大変。みんなで一生懸命さがしましたが見つかりません。一体どこでなくしてしまったのか、おハナさんにも解りませんでした。

 おハナさんは、それはそれは悲しみました。

「えらいことしてもうた。でも、なくしてしもたもんは仕方ない。私が悪いんや。御朱印はもう貰われへんけど、最後までちゃんとお参りさせて貰おう。」

 おハナ婆さんは、その後もツアーに参加し、八十八のお寺にお参りしました。

 

 おソメ婆さんは、おハナさんがお遍路に行った少し後から、別のお遍路ツアーに参加しました。おハナさんから、色々とお遍路のみやげ話を聞かせてもらいました。

 掛け軸をなくした話を聞いた時には、おソメさんもとても悲しくなりました。

「それは可哀想に。いつか見つかるとええなぁ。私もなくさんようにじゅうじゅう気をつけなあかんわ。」

 

 そんなある日、おハナさんの家に四国の警察から荷物が届きました。

 開けてびっくり。中には、あのなくした掛け軸が入っていたのです。

「まちがいない。たしかに私のお軸や。親切な人が届けてくれたんや。ありがたいことやわ。」

 おハナさんは、たいそう喜んで、おソメさんに教えにいきました。

「見つかって良かったねぇ。めでたいめでたい。そうや。私もかなり進んでるから全部は出来んかも知れんけど、残りのお寺でおハナさんの分も御朱印貰って来てあげる。

 その掛け軸、私に預けてちょうだいな。」

「うれしいわぁ。ほなおねがいしよか。○番の△△寺さんから貰えてないの。」

「あら、ぐうぜんや。それ、わたしがつぎに行くお寺さんやないの。」

 

 こうして、おソメさんが手伝ってくれたおかげで、おハナさんの掛け軸にも、すべてのお寺の御朱印が集まりました。

 二人は、なかよく高野山へお礼参りに行きました。

 

 ところで、おハナ婆さんがなくした掛け軸ですが、どこにも名前や住所などは書かれていませんでした。

 いったい、ひろった人や警察の人は、どうやっておハナ婆さんの掛け軸だとわかったのでしょう。

「きっと、お大師さんが届けてくれたんや。

 そうにちがいない。

 ほんまにありがたいことやわ。」

 ふたりは、笑顔でそう言いました。

 

 

(このお話に登場する二人のお婆さんはもう亡くなられていますが、二人がよく通っていたお店の方から、お話を聞かせていただきました。)

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