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7 観光バス

 Nさんは観光バスの運転手をしている。

 

 お客さんを乗せ次の目的地に向かって町中を走行していた時。

 いつものルートを走っていたつもりが、一度通り過ぎた場所に出てきてしまった。

「あぁ、ごめん。ちょっと道間違えちゃったみたい。」

「いえ。」

 隣のバスガイドに一言詫びて、先に進んだ。

 次の交差点で左、○○号線まで来たら右、先に緩いカーブがあって、その先で…また同じ場所に出てきた。

「あれ?ねぇ、道あってるよね。」

「はい。あってます。」

「でも、ここ通ったよね。」

「はい…」

 もう一度、注意を払いながら進む。

 次の交差点で左、○○号線まで来たら右、先に緩いカーブがあって、その先は…また同じ場所だ。

「僕、道間違えた?」

「いえ、間違えてないです。」

「だよねぇ。でも、同じ場所だよね。」

「はい…」

「おかしいよね。」

「はい…」

 同じことをもう一度繰り返した後、Nさんは路肩にバスを停めた。埒が明かない。

「うーん。まずいな。落ち着こう。ちょっと地図見せて。」

 バスガイドと一緒に地図を確認する。

「今ここだろ。で、さっき僕はこの道をこう通って、こう曲がったよね。」

「はい。」

「予定のルート通りだよね。間違いないよね。」

「はい。間違いありません。」

「うん。間違ってない。間違ってないんだよ。ここに戻ってきてる事の方が間違いだ。僕たちは間違ってない。間違ってないんだからもう一度行ってみよう。」

 その後は戻されることもなく、無事目的地に到着した。

 

 同じ場所に戻されるという怖さよりも、大幅にスケジュールが遅れてしまう不安の方が大きかったそうだ。

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