top of page

49 火の用心

 Uさんは中学生の時に不吉な夢を見た。

 Uさんの家は家具を製作していて、家屋のうしろ半分程が工場になっている。そこが火元となって火事が起き、家が半焼するという夢だ。

 その夢がとても怖くて誰にも言えずにいた。

 数日後。実際に火事が起きた。

 夢の通り工場から出火して、家は半焼した。

 

 高校生になって、似たような夢を見た。

 同じ町内のよく知るお宅が火事になり、モクモクと煙が上がっている夢だった。

 そういえば昔同じような夢を見たことあるなとは思ったが、たかが夢だろうと誰にも言わなかった。

 数日後、そのお宅が火事になった。

 

 結婚して実家を出た後。

 今度は、弟の布団が燃え火事になる夢を見た。

 今まで火事の夢を見た時は正夢になっている。

 心配でたまらず弟へ電話した。

 くれぐれも火の元には注意するように、決して寝煙草などしないように釘を刺した。

「急に電話してきて何かと思ったら、そんな事かよ。はいはい、わかったわかった。」

 弟は軽い調子でそう言って電話を切った。

 

 数日後、弟から電話がかかってきた。

「姉ちゃん…俺、布団焦がした…」

 小さな火が上がった時点ですぐに気付いて、布団を窓から放り投げ、庭で水をかけて消火したので大事には至らなかったという。

 だからあれほど言ったのにと、Uさんは弟を厳しく叱った。

「ごめんごめん、気を付けるよ。でも、なんで姉ちゃんあの時電話してきたの?」

 Uさんは初めて人に夢の事を話した。

 自分が火事の夢を見ると正夢になる。自宅の火事も、ご近所の火事も夢に見た。今回も夢に見たから電話したのだと教えた。

 弟は黙ってUさんの話を聞いていたが、

「そんな迷惑な夢見るな!」

 突然そう怒鳴って、電話を切ってしまった。

 

 それ以来、火事の夢は見ていない。

bottom of page