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45 脈動

 その日、Sさんはいつものように会社に行き、いつものように仕事をこなした。

 ただ、昼休みに入った頃から体に異変を感じだした。

 頭の中がドクドクと脈打っている。

 特に痛みはない。熱もない。気分が悪いわけでもない。ただ頭の後ろ側にドクドクとした感覚がある。触ってみても傷や腫れがあるわけではなかった。

 気にはなったが、脈打つ感覚だけで他に異常はないので、そのまま放っておいた。

 

 午後の仕事が始まってしばらく経った頃、職場にSさん宛ての電話が入った。

 自宅の母が倒れているのが見つかったという。

 搬送先の病院を聞き、慌てて駆け付けたが、バタバタとしている間に、母は意識を取り戻すことなく息を引き取った。

 母は血圧が高かった。医師によるとどうも昼頃に脳の後ろ側から出血が始まり、人を呼ぶことも出来ないまま倒れたようだった。

 

 その日の朝、いつもとは違って、母が何も言わずにまじまじと私を見ていたのをよく覚えている、とSさんは言う。

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