top of page
44 チャッチャッチャッ
ある日を境に、突然自宅の廊下から妙な音が聞こえるようになった。
チャッチャッチャッと、何かで板張りの床を引っ掻くような、軽い音だ。
廊下を見てみても、何もない。
それは、昼でも夜でも、時間を問わず度々聞こえた。
その音にはどこか聞き覚えがあった。
一体何だったか、はじめは分からなかったが、しばらく考えるうちに思い出した。
昔、この家で室内犬を飼っていた事がある。
もう亡くなってしまったが、廊下の隅に置いていたクッションの上でよく眠っていた。
あの子の足音にそっくりだ。
家族に、最近あの子の足音が聞こえると話したが、どうやら聞こえているのは自分だけのようで、気のせいだろうと取り合ってくれなかった。
入院していた母が亡くなると、音はピタリと止んだ。
家族の中で特にあの子を可愛がっていたのは、父と母だ。
あの音はそういう事だったのかもしれない。
そう思った。
数年後、また音が聞こえるようになった。
今度は父が入院していた。
やはり、そういう事なのだろう。
亡くなると、音も聞こえなくなった。
bottom of page