41 遺伝
Hさんが初めて彼氏の実家に泊まりに行った時の事。連休を利用して二泊させてもらう事にした。
一日目の夜。彼の部屋で一緒にテレビを見てくつろいでいると、蛍光灯がチカチカと瞬きだした。
あれれ?と思っているうちに明かりが消え、部屋が真っ暗になった。
同時に、テレビもプツンと切れてしまった。
「えっ?何?停電?」
「いや、停電じゃないみたい。」
「じゃあ何?ブレーカーが落ちたの?」
「いや、それも違うな。動いてるのもあるから。」
よく見ると、デッキやステレオ等、ほかの電化製品のランプはついている。
部屋の入り口にあるスイッチを押してみるが明かりは点かない。
ドアを開けてみると、廊下の明かりはちゃんとついていた。
「この部屋の蛍光灯とテレビだけが消えるって、何?」
「うーん何だろう。分かんないな。」
彼がカチカチと何度もスイッチを押しているが、明かりは点かなかった。
部屋の事は彼に任せて、Hさんは一旦トイレに行った。
部屋に戻ると、無事に明かりは点いていた。
だが、部屋の真ん中で座っている彼の後ろに、彼のお母さんが座っていた。
「もう、また変なもん連れてきて。」
そう言って、お母さんが彼の背中をバンバンと叩いている。かなり痛そうだが、彼はじっとしている。
「はい。これで終わり。」
お母さんが立ち上がり、Hさんに気付いた。
「あらやだ、変な所見られちゃったわね。気にしないでゆっくりしていってね。」
笑顔でそういってお母さんは部屋を出て行った。
「えっ?な、何いまの?」
彼はバツの悪そうな顔で話し出した。
「ちゃんと説明するよ。嫌われるかも知れないと思って、言えなかったんだ。
実は、俺のお祖母ちゃんがイタコで、それの遺伝だと思うんだけど、うちの家族とか親戚は霊感が強い人が多いんだ。
特に母ちゃんとか伯母さんは婆ちゃんの血が濃いからだと思うけど、簡単な除霊とかも出来るくらい強いんだよ。
今までに何回かやってもらった事があるんだけど、さっきみたいに背中を叩いて落とすんだ。
今まで黙っててごめん。」
謝られても、いきなりの事で理解が追い付かない。
「えっと。じゃあ、その。
さっき明かりが消えたのも、幽霊なの?」
「うん。そうみたい。気付かなかったけど俺に憑いてたみたい。」
まだ、追い付かない。
「そう、そうなんだ…
え?え?じゃあ、あなたも霊感が強いってこと?幽霊見えるの?」
「いや、それが…俺だけ全然霊感が無いんだ!姉ちゃんも弟も霊感が強いのに、なんでか分かんないけど、俺だけ全然見えないんだよ。」
別に期待していたわけではないが、肩すかしを食らったような気になった。何だか怖いと思っていた気持ちも和らいでしまった。
翌日、彼のご家族と一緒に夕飯を食べていると、お母さんからこんなお願いをされた。
「Hちゃん、昨日はびっくりしたでしょ。もうあの子から聞いてるとは思うけど。
それでね、うちに泊まってる間にHちゃんに何か起こったらと思うと、私心配でしょうがないのよ。
だから、今日は弟も同じ部屋に寝させていいかしら?」
「え?はぁ…まぁ良いですけど。」
「良かった。これで安心だわ。」
あまり考えずオーケーしたが、よくよく考えると妙な話だった。
〝何かあったら〟って何だろう?
よく分からなかったが、その日は彼の弟も彼の部屋で寝た。
翌朝起きると、彼の弟はすでに起きていた。
ムスッとした顔で、目の下に濃い隈が出来ている。
「兄ちゃん、よくこんな部屋で毎日眠れるな。」
どうやら、眠れなかったらしい。何があったのか聞いてみた。
「明かり消したら、そっちの隅っこに女が立ってたんだよ。白い服で長い髪を垂らした貞子みたいなやつ。そいつがジッと俺らの方見てるんだよ。」
Hさんは気付かなかったが、そんなものが居たのかと思うと一気に怖くなった。
「でも、それは別にいいんだよ。見てるだけだから。なんなんだあいつ等は。」
まだ、他にもいるらしい。
「親子だよ、親子。たぶん親子。小さい息子と父親。
たぶんっていうのは、顔とか表情がわかんないんだよ。二人とも胸から上が真っ黒けで、よく見えなくて。でも、真っ黒具合が同じだから親子で間違いないと思う。
その息子の方が、俺らの周りをグルグルグルグルすごい勢いで走り回るんだよ。父親の方はそれを眺めてるだけで何にも言わねえの。父親なら注意しろよまったく。
一晩中走り回られて、一睡もできなかったよ。
兄ちゃん、ホントによくここで眠れるな。こんな場所そうそう無いぞ。」
Hさんも、そんな場所だと気づかずに二日間寝てしまった。
彼氏にもお祖母さんの力は遺伝しているのかも知れない。
あまり要らないところだけ。