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39 静かな夜道
Kさんの友人にストリートミュージシャンをしている女性がいる。
路上ライブを終え、一緒に彼女の自宅まで帰っている時の事。
線路沿いの一本道を歩く。車通りも無く、たまに通る電車の音以外は静かな道で、後ろを歩いている酔っ払いの能天気な鼻歌が小さく聞こえる。
今日の出来はどうだったのか、次はいつどこでライブをするのか等話しながら歩いていると、唐突に
「Kちゃんってさ、幽霊見たことないんだっけ?」
と聞かれた。
友人は所謂みえる人である。よくどこそこに幽霊がいたなどの話を聞かされていた。
一方、Kさんは全くそのような経験がない。
「無いよー。私霊感ゼロだもん。見たこともないし、何かを感じたりってのもないし。見たことある人の方が少ないんじゃない。」
「えー、そんな事も無いよ。」
「いや、絶対あなたみたいにみえる人の方が珍しいんだから。」
「うーん、そうかなぁ。」
「そうよ。」
どこか納得できないような顔で、彼女はこう続けた。
「あのさ、さっきから何か聞こえない?」
「あぁ、後ろのオジサンでしょ。変な鼻歌だよね。」
「聞こえてるよね?」
「聞こえてるよ。」
「振り返ってみて。」
そう言われてKさんが後ろを振り返ると、誰も居なかった。
道の片側は線路で踏切などない。もう片側にも横道はなかった。隠れる場所もない。どこかの家に入ったような気配もない。
というよりも、振り返る寸前までオジサンの鼻歌は聞こえていた。消えたとしか思えなかった。
「え?あれ?オジサンは?さっきまでいたよね?」
混乱するKさんに、彼女はこう言った。
「Kちゃんにも聞こえてるみたいだったから聞いてみたの。
やっぱり、そんな事もないんじゃない?」
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