38 オールナイト
「まぁ、色々あったけど、一番不思議な体験と言えば、あれかなぁ。」
そう言って、Fさんはこんな話を聞かせてくれた。
Fさんは以前、運送会社で配達の仕事をしていた。
その日も、トラックに乗っていつも使う抜け道を通っていた。
道幅は狭いが、対向車が来ても何とかすれ違える。道の片側は線路が通っていて、反対側は河原まで数メートルの高さがある土手になっている。
前から自転車に乗った女子高生がやってきた。
Fさんは左側にトラックを寄せて、すれ違った。
狭い道なので、また真ん中まで車を戻そうとミラーを見ると、先ほどすれ違った女子高生が映っていない。
しまった!あの自転車、引っかけて転ばせたか。そう思ってブレーキを踏んだ。
「ごめん!お嬢ちゃん大丈夫?」
ドアを開け、顔を出して振り返ったが女子高生の姿が見えない。
トラックを降り、後ろまで行って辺りを見回したが、誰もおらず、自転車もない。
横の線路に踏み切りはないし、河原に落ちた様子もない。
念のため、トラックの下も覗いたが、何もなかった。
消えた。そうとしか考えられなかった。
さっさとここを立ち去ろう。
不気味に思いながら配達をつづけた。
その日の夜。
Fさんはいつも小さくラジオを付けたまま眠りに入る。一時を過ぎ、オールナイトニッポンが始まって一曲目の音楽が流れだしたころ。
ウトウトしてきていたFさんの布団が、ズルリと下にずれた。
なんだろうと目を開けると、誰かが自分の足元に這いつくばっている。
驚いて起き上がろうとしたが、体が動かない。
そいつはゆっくりと這い寄ってくる。その度に布団が掴まれて、ズルリズルリとずれていく。暗い部屋の中、だんだんと姿が見えて来た。
あの女子高生だ。
Fさんは頭の中でお経を唱えながら、必死に動こうとした。
全身に力を込めてもがいていると、突然動けるようになった。
布団から飛び出し足元を見たが、もう女子高生は消えていた。
息を整えて、気持ちを落ち着かせようとしていると、枕元のラジオから
〝午前 一時を お知らせします
△△のオールナイトニッポン!〟
と聞こえた。
おかしい。さっきオールナイトニッポンを聞いていたじゃないか。なんでもう一回始まるんだ。
時計を見ると、確かに午前一時を指している。
状況を理解できず、そのままラジオを聞いていると、さっきと同じパーソナリティーが、さっきと同じ話題をしている。
次にどんな話をするのか。どんなオチを付けるのか。Fさんの記憶通りに番組が進んでいく。
〝それでは本日の一曲目行きましょうか〟
その一曲目は、二度目だ。