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33 轟々

 Nさんは山間の村で育った。

 高校生の頃、自宅から学校までは七~八キロ離れており、毎日自転車で登下校していた。

 

 ある日の夕方。部活も終わり友人たちと一緒に自転車で帰っていた。

 Nさんの家が一番遠くの集落である。一人また一人と別れ、最後にはNさんだけになった。

 薄暗い田舎道、ひとり自転車をこいで行く。

 もう少しで自分の集落に着く頃、ふと少し離れた山に目をやると、中腹に大きな明かりがあった。

 何かのライトや松明などではない。もっともっと大きな炎だ。きっと近くに寄ればごうごうと音をたてているに違いない。

 その炎が猛スピードで木々の間を駆け抜けていく。どんな生き物も、どんな乗り物であっても、山中をあんなスピードで動くことなんて不可能だ。

 長い尾を引きながら、炎はあっと言う間に山を横切り見えなくなった。

 怖ろしくて恐ろしくて、必死に自転車をこいで家に帰った。

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