top of page

32 兄

 Aさんがまだ五歳だった頃。

 三つ年上の兄が風邪をこじらせ、肺炎に罹ってしまった。

 

 母が布団の中で眠っている兄を看病している。

 その横でAさんは、暇を持て余していた。

 お兄ちゃんが病気だという事は分かっていたが、遊び相手もおらず、お母さんもかまってくれない。

 やる事もなく、部屋のあちこちをただボーッと眺めていた。

 すると、視界の端から何かが飛んで来た。

 オレンジ色のぼんやりとした大きな光の塊。

 Aさんはそれをじっと見つめた。

 光は目の前を横切り、障子をすり抜けて、表へ出て行った。

 

 振り返ると、動かなくなった兄の手をきつく握りしめ、母が泣いていた。

bottom of page