25 霊感
「私は、全然霊感無いからなぁ。」
怪談の取材をしていると、ほとんどの方がそう答える。
Sさんもそうだったが、色々とお話しするうちに「強いて言えばこんな事がありました。」と話してくれた。
ある時、知人の男性と車に乗って、山を越えた先にある街に向かった。運転は知人に任せて、Sさんは助手席に座っていた。
途中でN峠に掘られた百五十メートルほどのトンネルを通る。
トンネルが見えて来たとき、Sさんは違和感を覚えた。
トンネルの中が青い。
「あそこ、なんか青くない?」
「青い?どれの事?」
トンネルが近づいてくると、どうやらトンネルの中が青く光っているのだと分かった。
「ほら、光ってるじゃん。青いライトかな。」
「光ってる?ライト?どこどこ?」
運転している知人には見えていないらしい。
自分の目がおかしくなったのかと思い、Sさんはごしごしと目をこすってからトンネルを見てみた。
やっぱり青い。
そのまま車はトンネルの中に入っていく。
中は真っ青だった。壁も天井も、全てが真っ青な光を放っている。こんな光のトンネルは今までに見たことがない。
「うわ!すごい!真っ青じゃん!これ壁とかどうやって光らせてるのかなぁ?」
Sさんの横で知人が言った。
「やめてくれよ!このトンネル真っ暗でライトなんか一つも無いだろ!」
話を聞いて私もストリートビューで確認したが、トンネル内にライトは一つも設置されていない。
また、こんなこともあったという。
アルバイトをしていた職場で、仕事終わりにみんなで心霊スポットへ行こうと盛り上がった。
どこに行くのか相談していると、誰かが『武家屋敷』がいいんじゃないかと言い出した。なんでも鎧武者の霊が出るらしい。場所もそう遠くない。Sさんも噂は聞いていたが行った事のない場所だった。
数人で武家屋敷に向かってみると、建物は名前から想像していたほど古いものでは無かった。
アルバイト仲間たちは懐中電灯を持って中に入ろうとしたが、Sさんがそれを止めた。
「駄目だよ。勝手に入ったら怒られるよ。」
「何言ってんだよ。ここまで来たんだから入ろうよ。それに誰に怒られるっていうんだよ。」
「だって、ここ人が住んでるじゃん。」
建物の窓から明かりが漏れている。玄関先の表札の横にもランプが灯っている。
「こんな廃墟に人が住んでるわけないだろう。」
「だって、明かりついてるじゃん。ほら、玄関の所にも。」
それを聞いて、周りの仲間が凍り付いた。
明かりなどついていないという。
結局、中には入らずお開きになった。
「まぁ強いて言えばこれくらいですかね。でも私、全然霊感無いから幽霊みた事無いんですよね。」
とSさんは言う。
私は「どちらかと言えばある方だと思いますよ。」と伝えた。