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23 橋

 Nさんの息子がまだ小学生だった頃。彼女は車を運転して、英語塾に通っていた息子さんの送り迎えをよくしていた。

 

 ある日、いつものように助手席に息子を乗せた、塾からの帰り道の事である。

 時刻は夜の七時をまわった頃。川沿いの道を走っていて赤信号で停車した。

 交差している道は信号の先で橋を渡る。

 何気なく景色を眺めていると、欄干に設置されている看板が目に入った。溺れた子供の絵と『あぶない!川であそばないで!』と書かれた、ありふれた看板だ。

 その看板の後ろからひょっこりと男の子が顔を出して、こちらを見ている。

 はじめにNさんは、まぁ可愛らしい子ね、と思った。幼稚園児か小学校一年生ぐらいだろうか。ニコニコと屈託のない笑顔でこちらを見ている。その可愛らしさに思わず頬が緩んだ。

 次に、あの子一人なのかしら、と心配になった。見たところ周りに保護者や友達らしき人影はない。あたりもすっかり暗くなっている。

 その後で、あの子どうやって立ってるのかしら、という疑問が浮かんだ。看板は欄干にピッタリ張り付くように設置されている。

 看板の土手に近い側であれば、そこに立てるだろうが、顔を出しているのは橋の中央側。とても土手からは届かない位置だ。小さな子供なら立てるくらいのスペースがあるのだろうか。

 不思議に思っていると、助手席の息子が腕を引っ張った。

「お母さん、あの子おかしい。」

 こわばった表情でそういう。子供の目から見ても、やはりあそこには立てないのだ。

「そうよね。おかしいよね。」

 二人で確認しあい、もう一度看板を見たが男の子は消えていた。

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