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22 河童

 S川は蛇行が激しく、度々水害をもたらしてきた。

 Oさんが子供の頃は、一度水が溢れ出すと周りの道路も川のようになった。その中を大きなフナが泳いでいく。子供たちはタモを持ってそれを追いかけまわして遊んだ。

 普段の川の水は今よりずっと澄んでいて、魚の泳ぐ姿がよく見えた。

 それでも、川が蛇行している所は底の見えない深い淵になっていて、K橋の下もその中の一つだった。

 夏になると、子供たちが橋から飛び込んでどこまで潜れるか競い合ったが、誰も底まではたどり着けなかった。

 

 Oさんの奥さんの体験である。

 子供の頃は家に風呂が無く、兄姉と一緒に銭湯に通った。

 ある日の夕暮れ、銭湯からの帰り道。

 K橋を通りかかると、橋の下から水音が聞こえた。

  ピシャリ ピシャピシ ピシャーン

 高く澄んだ、奇麗な音色。

 魚が跳ねるバッシャン、ドボンという音や、水鳥が小魚をついばむパシャパシャとした音は日頃から聞いていたが、明らかにそれらとは違う美しさがあった。

  ピシャリ ピシャピシ ピシャーン

「ねぇ、あれなんの音かな。」

 兄姉に聞いてみた。

「さぁ、何の音だろうね。河童でもいるのかな。」

 そう言われて、好奇心に駆られた。

 二人に待っているようお願いして、一人河原に降りて行った。

 草をかき分けて進み、橋の下を覗く。

  ピシャリ ピシャピシ

 痩せこけて猫背気味な人影が二つ並んでいる。

 背丈は自分と同じ程度だが、とても脚が短く胴が長い。

  ピシャ ピシャリ

 水面に伸ばした両腕は、短い脚に反して異様に長い。背丈と同じくらいの長さがある。

 立ったまま、掌で川面を打つ。

  ピシャリ ピシャピシ ピシャーン

 声も出せず息も出来ず見つめていたが、二匹のそれは見られていることに気付いたのか、チラリこちらを見やると、トプリ川に飛び込み、淵の底に消えて行った。

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