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21 隅
一月二日。年が明けてすぐだったので、はっきりと日付も覚えているとMさんは言う。
夫の親戚のお爺さんが亡くなった。
まだ幼い子供がぐずると迷惑がかかると考え、夫だけが通夜に参列し、Mさんと子供は家に居た。
そろそろ通夜が始まっただろう頃、突然大きな音が鳴り響いた。
それは、ドラム缶を鉄の棒で思いっきり引っ叩いたような、ガーンという音だった。
音がしたのは家の外のようだった。丁度敷地の角の方角だ。そこに大きな音のするようなものは置いていない。
驚いたMさんは、子供を抱えて、部屋の真ん中でじっとしていた。
すると、またガーンと鳴り響いた。
だが、さっきとは位置が違う。敷地の別の角で音が鳴った。
音が移動している。
Mさんがそのまま動けずにいると、またガーンと音が鳴った。やはり次の角に移っている。
そして、また。
敷地の四隅で一度ずつ音を鳴らして周り、その後は何の音もしなくなった。
これはひょっとして〝葬儀に出なさい〟という事か。
Mさんは、何となくそう思った。
翌日、子供を連れて葬儀に参列した。
Mさんが焼香をあげると、煙が顔の高さでしばらく留まり、塊を作ってからホワリとほどけた。
一度もお会いした事の無いお爺さんだったので〝結婚したならちゃんと親戚みんなに顔を見せなさい〟という意味だったのかも知れないともMさんは思った。
だが、何故あのような大きな音を打ち鳴らしたのか。
敷地の四隅で音を立てることに、どんな意味があるのか。
それが分からないので、Mさんは自分の考えに少しばかり矛盾を感じている。
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