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13 仏前

 Oさんの奥さんは、『みえる人』なのだという。

 みえるのは亡くなった親類や知人が多く、会話を交わすことすらあるらしい。

 しかし、夫であるOさん自身はどちらかといえば懐疑派で、奥さんの話もあまり信じてはいない。

 

 Oさんの奥さんは東北地方の出身で、初めて不思議なものを見たのは小学生の頃だという。

 祖父の通夜の席で、床の間の横にある押し入れの前を火の玉が飛んでいた。

 ぼんやりとした火が三つほど、左右に行ったり来たりしている。

 あれが何なのかと周りの大人に聞いてみると、親類の中にもみえている人が幾らかいて「あれはお祖父ちゃんだよ。」と教えられた。

 あぁ、そうなんだ。ただそう思っただけで、その火は全く怖くなかった。

 

 Oさんはそんな奥さんの話を信じないが、毎日仏壇に線香と灯明をあげる。一方、奥さんの方はみえる人だが、そういったことを全くしないのだそうだ。

 

 ある朝、Oさんが仏壇に線香と灯明をあげて仕事に取り掛かろうとしたところ、後ろを通りがかった奥さんに呼び止められた。

「あなた、お祖父さんが来てらっしゃいますよ。」

 Oさんにはみえないが、仏壇の前にお祖父さんが座っているのだという。

「今日は一体どうされたんですか。」

 などと、奥さんはお祖父さんと世間話を始めた。

 しかし、Oさんは信じない。供養の心を持つ事と、いるのいないのといった事は全く別だ。奥さんをおいて、そのまま仕事を始めた。

 しばらくすると、仏間から大きな声が聞こえた。

「あなた、来て!急いで!今ならあなたにもわかるから!」

 一体何を騒いでいるのかと仏間に向かうと、先ほどと同じように奥さんが一人で何もいない空間に話しかけている。

「そんな事があったんですか。それは良かったですねぇ。」

 その途端、仏壇の蝋燭の火が大きく伸びあがった。火は蝋燭の先端から五十センチ程燃え上がり、元の大きさに戻った。

「そうですか。そういえば、こちらでは最近こんなことがあったんですよ。」

 奥さんが話しかけると、まるで相槌を打つようなタイミングで火が伸び縮みし、話が終わると、それにこたえを返す様に大きく燃え上がる。

 Oさんは呆然と奥さんと火の会話を眺めていたが、その内無性に怖ろしくなった。

「わかった、もうわかったから!今日の所はもう帰ってもらってくれ!」

 たまらず、奥さんにそうお願いした。

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